ある日、「最近、背中が痛いんだよねー。前に心筋梗塞をやったときの痛みと同じなんだよ」と、もう数年にわたって診察をしているいつも柔和な顔の男性患者が、ややつらそうにしていました。
そこで心電図を撮っていたら、しばらくすると心室頻拍という命に関わる不整脈が出てきました。そこで薬剤の点滴静注投与をしましたが、治らず、入院を提案しました。
ところがその方は「死にたいとは思わないけど、病院で寝たきりになって治療するのは嫌だ。家でできる範囲で治療してほしい」と強い意志を示されました。
理事長 松原 清二
そこで不整脈の一因となった心筋梗塞に対して薬剤の追加対応としました。そして翌日様子を見たところ、「先生のお陰で痛みが楽になったよ」と回復されて、こちらも胸を撫で下ろしました。
医師の治療方針は、常に症状や年齢、全身状態に応じて考察し、それを患者に伝えて同意決定していくものですが、在宅医療ではそこに加えて、患者の生活、死生観、家族の考えなどがより色濃く出ます。
ときに在宅医としては、「こうやればきっともっと良くなるのに・・・」と歯がゆい気持ちになることがありますが、それよりも患者家族にとって何が最善かを考えることが大切です。
「病気を診るより人を診る」ことが、在宅医療ではより大切であると常々考えています。
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治療選択のジレンマ(在宅診療NOW 2022年5月)
Dr.matubara 2022-5