「先生、何だか転んじゃってから、足の付け根が痛いの」と息を切らしながら、ソファの上で寝ていた患者さんがいました。診察をすると、ちょうど大腿骨頸部の部分に痛みを訴えて、足が動かせません。
また呼吸も浅く早く、酸素飽和度も80%台、熱も40度と今までこの患者さんからは見たこともない発熱で、聴診をすると、左下肺野が息を吸っている時にバリバリ、バリバリという雪を踏んだような音が聴こえます。
これは大腿骨頸部骨折に加え、肺炎もある――と診断し、病院に緊急搬送、同院にて肺炎治療と骨折の外科手術を行ない、1カ月ほどして無事に自宅に戻ってきました。
理事長 松原 清二
大腿骨頸部骨折は自立を損なわせる外傷で、その前後で自立の割合が87%から50%にまで落ちてしまう報告もあります。
また、80歳以上の方の大腿骨頸部骨折では5年生存率が20%程度であるなど、がんでいえば、予後が厳しい膵がんと同程度となっています。命や生活の質の低下に関わる大変な疾患なのです。
要因としては骨密度が低下する骨粗鬆症が挙げられますが、これだけ大変な疾患であるにも関わらず、対象患者は約1280万人、治療を受けている患者数は約200万人と、治療漏れしている方が1000万人もおり、さらに、治療を開始しても治療継続率は2年間で20%ともいわれています。
昨今、多剤内服の身体に負担を与える関係で、骨粗鬆症治療薬は内服から外されがちですが、生命や生活の質に与える影響を考えると、注射薬に切り替えたり、月に1回の内服に切り替えたりと、工夫をしながら継続することが大切ではないかと思います。